2019.06.04

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100年ブランドに見る、ブランディング成功の秘訣とは?


2019年現在、日本に創業から100年以上の「長寿企業」が何社くらいあるかご存知ですか?金剛組、とらや、資生堂、三越、JTB…その数なんと33,000社以上も※1。

※1 帝国データバンク2019年発表

 

創業100年以上となると、売上やシェア、商品数、事業領域など、他にはない強みを持ったさまざまな企業が挙げられます。

一説によるとベンチャー企業の10年生存率が約6%と言われる現代。それよりもはるかに長い時間を生存どころか成長、発展し続けるのには大きな理由があるはずです。

今回は皆さんもよく知る100年ブランドを例に、その長寿と成功の秘訣を紐解いていこうと思います。

 

 

■ 1 誰もがよく知る、今年、誕生100年の優秀ブランド

今年めでたくメインブランド誕生から100年を迎え、とくに企業イメージにおいては突出した特徴を持つ企業があります。それが“カラダにピース”のフレーズで知られるカルピス株式会社です。

カルピス株式会社の創業は1917年。1919年に日本初の乳酸菌飲料「カルピス」を発売、今では国内を代表するほどの有名企業に成長しています。

このように100年ブランドを長生きさせ、さらに成長を続けること自体が素晴らしいことですが、「カルピス」ブランドに関して言えばもう1つ、「好感度」という他に類を見ない特徴があります。もっとわかりやすく言えば、“「カルピス」ブランド= “誰からも好かれる企業“なのです。

子供からお父さんお母さん世代、そしておじいちゃんおばあちゃん世代もです。事実、私はカルピスのことが嫌いな人に会ったことがありません。あなたやあなたの周りの方々の「カルピス」ブランドに対するイメージはいかがですか?

 

■ 2 本来、ブランドの「知名度」と「好感度」は反比例するはずなのに…

企業が成長〜拡大し、知名度を上げていくその過程で、どうしてもアンチな消費者が生まれてきてしまいます。人気タレントには多くのファンがいる一方、大嫌い!という人も存在するのと同じように、作用反作用の法則のようなもので、ブランドにも同様の宿命があります。

例えばコカ・コーラは圧倒的な知名度を誇り(おそらく国内では100%!?)、長年の愛飲する熱狂的なファンがいる一方、 “ジャンクで健康によくない”というイメージにより、健康志向が高い中高年や女性などの層で嫌厭する人が一定数存在することも事実です。

ところが不思議なことにカルピスは、全世代において男女区別なく好感度が非常に高く、嫌いと言う人がほとんどいません。日本人の飲用経験はなんと99.7%※2で、とあるソーシャルコミュニティで調べたところ、「カルピスが嫌い」と答えた方は80コメント中、たったの5つだけ!好感度は約94%にも上りました。

※2 アサヒ飲料調べ

これはブランドとしては異常と言ってもいい数値です。なぜカルピスは100年もの間、皆から愛され続けるブランドであり続けられるのでしょうか?

 

■ 3 ビジョンこそブランドの命

その秘訣はズバリ“ビジョン”にあります。

◎自らが心から達成したいと願う未来像である

◎「公共の夢」として人々を巻き込む力がある

◎未来への洞察と自らの信念の上につくられている

これが“ビジョン”です。

優れたビジョンは、未来への洞察と自らの信念の上につくられ、未来に夢見る人のエネルギーを結集する力を持っています。

ビジョンは企業の未来を指し示す「コンパス」であり、長期的に描かれた「経営計画」であり、自らを律する「憲法」でもあります。

ビジョンについて詳細は「ビジョン、ミッション、バリュー、コンセプト・・・。これからの理念経営のやり方 Part1. 徹底解説篇」で解説していますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。

 

[3]-1 「カルピス」ブランド成功の本質とは?〜独自のビジョン〜

カルピスがこれだけ長い間、誰からも愛され続けるのは、商品力や広告を始めとしたコミュニケーションの影響ももちろんあるでしょう。しかし、それらがすべてではありません。

答えはカルピスが誕生する少し前、創業者・三島海雲氏が掲げたビジョンにあると考えます。

三島海雲氏は25歳の時に訪れていた内モンゴルの地で、後のカルピスの元となる“酸乳=乳酸菌で発酵させた乳”に出会います。その健康効果を身をもって実感した三島海雲氏はこう心に誓うのです。

「おいしくてからだに良いものを創って、多くの人々の役に立ちたい」。

こうして創業者の発見と強い想いによって誕生した飲料カルピスは、時を超え、世代を超えて多くの人に受け入れられ、「安心、すこやか、おいしい」という普遍的な価値を届けていきます。

現在のカルピス製品を見ても、その価値観は少しもブレていないことが分かります。つまり、創業以来、創業者(企業)のビジョンと顧客が求める価値がシンクロし続けているのです。このブレなさの上に、100年ずっと愛されるカルピス独自のブランドがつくられているのです。

 

[3]-2 創業から約100年もの間、主力商品はただ1つの理由…!?〜コンセプトの重要性〜

多くの人が抱くカルピスのブランドイメージは、「カルピス」飲料を通じて創られています。なぜなら創業から現在にいたるまで、カルピスの商品は基本的に「カルピス」飲料ただ1つだけです。(さまざまなバリエーションとしては、常時複数種類のアイテムを展開)

1商品で約100年とは本当にすごいことです。一方、「カルピス」飲料の大ヒットで売り上げを伸ばし、確固たるブランド作りにも成功しているならば、新市場へもっと仕掛けていってもいいような気がします。

実際にある分野で築き上げたブランド力を活用するため、同じブランド名で違う分野に商品展開するのはよくあることです。

しかし、カルピスの場合は、1商品にこだわっているわけではなく、決して新事業や新市場への展開に消極的になっているわけでもありません。もちろん技術力や研究力がネックになっているということもありません。(むしろ日本でも有数の優れた技術と研究実績を併せて持った企業ですよね。)

基準はただ1つ、創業者のビジョンに基づいているか?本当に顧客が求める価値なのか?という判断の結果なのです。

つまり、カルピスのビジョンは“コンセプト=取り組みのための実行原理”も兼ね備えているんですね。本来ならば、企業のおけるビジョンやコンセプト、そして後述するミッションは、異なるフレーズで規定され、1セットで機能していくものです。

これは非常に珍しいケースと言えますが、同時にそのビジョンの素晴らしさを物語っているとも言えるでしょう。

カルピスのビジョンは“コンセプト=取り組みのための実行原理”も表しています。ブランドをつくる、そして育てる上で、“やれないこと”“やるべきではないこと”を明確にすることが、ブランドの輪郭をしっかりと作ることにつながります。さらに、顧客が抱く企業イメージや他社との事業ドメインの差別化も鮮明になってくるのです。

 

[3]-3 カルピスがサプリ!?それでもメガヒットの理由〜ミッション:一貫した取り組み〜

新事業であれ新商品であれ、ビジョンとコンセプトとの整合性が取れれば、“やりきる”ことで、ブランドはさらに力を集約でき、強く育ちます。

カルピスの通販限定サプリメント「アレルケア」をご存知でしょうか?15年ほど前に発売した(現在では別会社のアサヒカルピスウェルネスが販売)商品で、累計販売数2000万個突破、累計ご購入者数100万人突破※3の大ヒット商品となっています。

空前の乳酸菌ブームとも言える競合だらけの状況で、カルピスが今までにないサプリメント商品の展開を決めたのは、やはりビジョンとコンセプト、そして顧客のニーズに基づくミッションがあるからに他なりません。

「おいしくてからだに良いものを創って、多くの人々の役に立ちたい」という明確なビジョンのもと、一飲料メーカーから日本を代表する健康食品メーカー&世界が注目する乳酸菌研究企業へと取り組み(=ミッション)を広げ、行動原理であるコンセプトをまっとうしているのです。

※3 2016年売上 出典:「H・Bフーズマーケティング便覧2018 NO.2機能志向食品編(乳酸菌類シェア)」(株)富士経済

 

■ 4 まとめ

今から約100年前の7月7日、七夕の日にカルピスは世にデビューしました。キャッチフレーズ「初恋の味」でデビューして以来、世代を問わず日本中で親しまれています。

その秘訣はいつの時代も商品から透けて見える創業者の想い(=ビジョン)にあります。

 

顧客との約束とも呼ぶべき「安心、すこやか、おいしい」という価値を届けることでカルピス社のブランドは作られてきました。そして、優れたビジョンに端を発する明確な事業ドメインと一貫した取り組みによってブランドを育ててきました。

そして現在、通販市場での成功とともに、カルピスの企業ブランドは進化を続けています。100年間、価値をブラさずに、誰からも愛され続けるカルピスは、まさに日本が誇る名ブランドとブランディングの成功例だといえるでしょう。

それでは今回はこの辺で、また次回!