2019.05.16
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ブランディングの新たな可能性とその活用について
ブランディング(ブランドづくり)といえば、=商品・サービスのブランディング、企業ブランディングのイメージをまず思い浮かべる人がほとんどではないでしょうか?
実際に、googleやYahoo!による[ブランディング]検索結果のおそらく大半が、このような分野におけるブランディングとして語られていると思います。
ブランディングの効果や影響力を最も発揮するのが、企業・ビジネス分野であることは間違いないことなので、これは必然とも言えます。
しかし、昨今ではブランディングの技法やブランドの革新・活用は非ビジネスの分野にも注目されてきており、今後ますますその範囲は広がっています。
そして、今やブランディングの対象は企業や商品のみならず、その範囲はあらゆるものを包括します。ブランディングの可能性と新たな活用シーンとは?具体的に見ていきましょう。
目次
■ 1 ビジネス以外でも広がるブランディングの可能性とは〜企業活動から地域、国家へと〜
■ 2 第三分野におけるブランディングの活用例〜デザイン/アート分野〜
■ 3 ソーシャルグッドとブランディング
[3]-1 パタゴニア
[3]-2 アストロスケール
[3]-3 ソーシャルグッドとひとつなぎのコンセプト&ミッション&ビジョン
■ 4 まとめ
■ 1 ビジネス以外でも広がるブランディングの可能性とは〜企業活動から地域、国家へと〜
代表的な領域では、地方・都市・国家のブランディングが挙げられます。地域ブランディングについては『成功実例から学ぶブランディング「地域ブランディング編」〜一見、特徴がないと思われる地域をブランディングする一番大切なこととは?〜』で詳しく解説していますので気になる方はご覧ください。
熊本県、愛知県今治市、香川県直島など地方のブランディングのみならず、都市や国家のブランドにおいても、その活路は大きくひらけてきていると言えるでしょう。
“地方・都市・国家のブランド”とは、“国家ブランド”という言葉を初めて用い、定義した著名な政策アドバイザーのサイモン・アンホルト氏の言葉を借りれば「いかに国(地方・都市)を対外的に位置付けるか」ということです。
ブランドとは「良き記憶」です。モノやコトがありふれて、情報もあふれた現代だからこそ、ブランディングによって明確化された価値や差別化されたイメージは大きな強みとなります。
ちなみにサイモン・アンホルト氏はGfKローパー広報&メディア社とともに2005年から「国家ブランド指数」を発表しています。「国家ブランド指数」とは、対象国の「文化」、「国民性」、「観光」、「輸出」、「統治」、「移住・投資」の6分野で評価する指標です。
日本の評価は何位だと思いますか?はたまた世界トップはどこの国でしょう?2016年と2017年の「国家ブランド指数」は以下をご覧ください。興味のある方はTEDでの氏のスピーチや他のランキング発表なども見てみると色々と考えさせられますよ。
都市ブランディングのはしりとも言えるのが皆さんも良くご存知のこのロゴマークがシンボルとなったアメリカニューヨーク州のキャンペーン(1970年代〜80年代)です。ニューヨーク市のグラフィックデザイナー・ミルトングレイザー氏がデザインした愛らしくてキャッチーなロゴと相まって、世界で最も有名な観光キャンペーンとしても有名ですよね。
このロゴのもと、芸術、文化、エンターテインメント、小売店にいたるまで、ニューヨークのすべてがコンセプトやガイドラインを共有し、統一したブランドイメージを展開しました。
国家ブランディングで記憶に新しいところでは、ロンドンオリンピック・パラリンピック開催の2012年から始まったイギリスの【GREAT】キャンペーン*があります。イギリスのさまざまな「GREAT」をポスターで象徴的に表し、イギリスを舞台とした食、カルチャー、観光、自然などの各種プロモーションを展開しています。
*「GREATキャンペーン(グレイト・キャンペーン)」は、英国のもつさまざまな可能性を全世界で紹介し、英国の観光やビジネスの機会を最大化することを目的としています。英国外務省、英国貿易投資総省(UKTI)、英国政府観光庁、ブリティッシュ・カウンシルなどの在外公館・公的機関を通して、企業・団体などの英国の資産を横断的に紹介し、貿易・投資・観光のさらなる促進を図ります。English(英語)、Culture(文化)、Knowledge(知識)、Creativity(創造性)、Entrepreneurs(起業家)などの複数の柱を設け、関連情報などを発信しています。
日本のおける国家ブランドも、イギリスの「トレードマークブリテン」、フランスの「フランスがフランスであるために」、イタリアの「歴史と伝統、芸術文化の豊かな国」、アメリカの「アメリカニズムの福音」など、海外諸国のブランド戦略のように進められています。
その流れを辿れば、2002年、観光立国をめざした国土交通省 「グローバル観光戦略」や2003年の「2010年に訪日外国人旅行者数を倍増の1000万人にする方針」を示した小泉純一郎首相(当時)の施政方針演説、観光立国懇談会報告書、観光立国関係閣僚会議 「観光立国行動計画」、2004年観光立国推進戦略会議報告書などが相次いでまとめられました。2004年には官民が参加する「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が実施され、「Yokoso! Japan」をキャッチフレーズに日本観光の魅力の発信、訪日観光を官民一体で推進することになりました。2009年には観光資源以外にも日本の強みとされるアニメ、マンガ、音楽、ゲーム、ファッション、グルメ、デザイン等のソフト産業をアイデンティティとしてアピールする「日本ブランド戦略」が策定され、クールジャパンイメージも浸透してきています。
ついに来年に迫った2020年の東京オリンピック・パラリンピックを1つの契機に、加速する日本ブランド戦略によって、どのようなコンセプトのもと“世界の中の日本”を打ち出していくのか非常に興味深いところですね。
■ 2 第三分野におけるブランディングの活用例〜デザイン/アート分野〜
このようにブランディングの舞台は民間企業、ビジネス、マーケティング主体の分野から、国家・地域・都市などの第三分野と呼ばれる収益を主要な目的に置かない組織からなる分野へと広がっていきます。
国家・地域・都市などの分野以外では、美術館、オーケストラ、アートギャラリーなども近年ブランディングの活用が盛んな分野となってきています。
赤坂の東京ミッドタウン ミッドタウンガーデン内にある21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワントゥーワンデザインサイト)はご存知でしょうか?地上1階地下1階のなんとも独創的な造形の建築は、日本建築界の巨匠・安藤忠雄氏によるもの。1995年に建築界のノーベル賞とも称されるプリツカー賞も受賞している、世界的に見ても泰斗と仰がれている方ですね。
この21_21 DESIGN SIGHTは“デザインを通じてさまざまなできごとやものごとについて考え、世界に向けて発信し、提案を行う場です。デザイナーをはじめ、エンジニアや職人、企業、一般ユーザーなど、あらゆる人々が参加し、デザインについての理解と関心を育てていくことを目指す”としています。
一般的に美術館やアート・ギャラリーといえば、絵画や彫刻、工芸、インスタレーションなどのアート作品を展示し、その鑑賞を目的にするものです。一方、21_21 DESIGN SIGHTは観るだけでなく、全身で体感できる展示が多く、大人から子供までどんな人でも楽しめるのも特徴です。
“アート・デザインを通じて非日常を感じる→アート・デザインを日常として体感する”“UI(アート・デザインの境界を楽しむ)→UX(アート・デザインの体験全体を楽しむ)”“アート好きの楽しみ→デザイナーをはじめ、エンジニアや職人、企業、一般ユーザーなど、あらゆる人々が参加”といった独自のアート・ギャラリーとしてのポジションで、さまざまなプログラムを展開しています。
その原点には【訪れる人がデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験をすることで、生活を楽しく、豊かにし、思考や行動の可能性を広げる】という優れたビジョンと【デザインを通じてさまざまなできごとやものごとについて考え、世界に向けて発信し、提案を行っていく】というミッションが見えてきます。
21_21 DESIGN SIGHTは明確で優れたビジョンとミッション、そして「日常に潜む可能性をデザインによって引き出す」というコンセプトのもと、「21_21 DESIGN SIGHTは文化としてのデザインの未来を発見し、つくっていく拠点」といった独自のポジションを築いたブランディングの好例と言えますね。文化・芸術の領域でも、今後ますますブランドやブランディングの可能性・実用性は注目されていくと思います。
日本は今はまだ北欧などと比べてデザインと暮らしの関係性は薄い感じがします。しかし将来、21_21 DESIGN SIGHTが描くビジョンのように、デザインによって生活が楽しく、豊かさにあふれる“デザイン立国ニッポン”として発展していくことに期待したいと思います。
■ 3 ソーシャルグッドとブランディング
近年、耳にすることが多くなった“ソーシャルグッド(ソーシャルインパクト)”というフレーズ。“ソーシャルグッド”とは気候変動や都市問題、差別、貧困といった、時に世界的な社会課題の解決につながる取り組みを指し、企業のCSRやSDGsとしても扱われることが増えてきた概念です。
この企業活動における“ソーシャルグッド”も、ブランドやブランディングとは切っても切れない関係にあると言えます。むしろ、昨今の企業ブランディングの一トレンドとなっています。
[3]-1 パタゴニア
その好例とも言えるのが、アウトドアメーカーのパタゴニアです。パタゴニアのミッション・ステートメントはこうです「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」とにかく明確で潔く、強い意志を感じますよね。その上で、製品づくりはもとより、自然保護や団体支援、教育など、自らが定めたミッション(=取り組み)に沿った行動を続けています。
パタゴニアはメーカーです。アウトドアウェア&ギアを作り、販売し、利益を得ています。しかし、そのブランドの根底には“地球への愛”があります。企業活動ありきの従来のCSRとは一線を画す、地球保護のためのビジネス。そのソーシャルグッドな姿勢こそが、パタゴニアが世界中の顧客から愛される所以なのです。
[3]-2 アストロスケール
宇宙ベンチャーのアストロスケール(設立:2013年5月/本社:シンガポール)もまさにソーシャルグッドなミッションを掲げ注目を集める起業です。創業者の岡田光信氏はForbes JAPAN起業家ランキングでも1位に選ばれています。
アストロスケールは、より持続性のある宇宙開発のために宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題に取り組む宇宙事業を展開しています。スペースデブリとは宇宙空間に漂っている役目を終えた衛星やロケットの一部やその金属片のこと。宇宙空間には、現在1cm以上のデブリだけでも約75万個が存在すると言われ、衛星やスペースシャトルの軌道上の安全を脅かしており、宇宙デブリ問題は宇宙産業発展の大きなボトルネックとなりつつあります。
2020年には世界初のデブリ除去衛星実証機が打ち上がる予定になっています。「次世代が持続的に宇宙開発に取り組めるように社会に貢献する存在でありたい」人類夢の実現に向けて一歩一歩事業展開を進めるアストロスケールは、まさにソーシャルグッドな未来型ブランディングの典型です。
事業内容の特殊性やスペースデブリに挑む人類初の起業家といった背景もそうですが、これだけ世界的にも大きな注目と期待を集めているのは「アストロスケール のビジネス=世界課題の解決」だということに他ならないからではないでしょうか。
[3]-3 ソーシャルグッドとひとつなぎのコンセプト&ミッション&ビジョン
SDGs(持続可能な開発目標)という社会全体のゴールが声高に叫ばれるこの時代に、社会的な意義や課題を無視するブランドは支持されなくなることは明らかです。
顧客からは企業も1人の人間と同じように、「本当はどんな人?」「一体何を考えているの?」「どこで何をどうしたいの?」と、予想以上によく見られているものです。
その結果、共感され、ファンになり、熱狂し、応援されるか。はたまた、嫌われ、軽蔑され、敬遠されてしまうか。ブランドの大きな分かれ道です。
このような状況の中でブランドに大切なのは、
その実行原理である「コンセプト」
その取り組みである「ミッション」
心から達成したいと願う、あるべき未来像の「ビジョン」
です。
特にビジョンは
1.自らが心から達成したいと願う未来像である
2.「公共の夢」として人々を巻き込む力がある
3.未来への洞察と自らの信念の上につくられている
という性質を持っており、
企業やブランドのエネルギーを結集する働きがあります。
コンセプトやミッション、ビジョンの先にある「私たちだからこそできること・スタンス(=ブランドアイデンティティ)」を発信し、実行することで社会に寄与することこそがソーシャルグッドであり、その結果、ブランディングにつながっているのです。
■ 4 まとめ
以上、今回は企業以外でのブランディングやブランディングの新たな可能性の高まりについて見てきました。
国家や地域、営利を目的としない団体や組織、社会貢献活動との結びつきなど、これら以外にもブランディングの範疇は多岐にわたりますが、その鍵はどれも変わらず「コンセプト」「ミッション」「ビジョン」にあります。
詳細は「ビジョン、ミッション、バリュー、コンセプト・・・。これからの理念経営のやり方 Part1. 徹底解説篇」で解説していますので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
それではまた次回!