2019.04.23
| blog+news
ブランドの3つの価値とは? 【完全理解】愛されるブランドは何が違うのか?
こんにちは。
唐突ですが、ブランディングが成功しない原因って何かわかりますか?
さまざまなことが挙げられますが、「ブランディング」や「ブランド」をきちんと理解しないままブランディングを進めていることが一番の問題だと思います。
例えば・・・
「とにかく、ブランドとなる商品のデザインを整えればいい。」
「ブランディングは戦術的なことが一番大事だ。」
そんな考えはないでしょうか。
そのブランドが生活者の心を掴み、名実共に本当に「ブランド」となるためには、ブランドが愛される法則を知らなければなりません。
今回はそのへんの愛される法則、愛される仕組みについて書いていきたいと思います。
ブランディングを成功させたいという方、必見です。
目次
■ 1 なぜそのブランドは愛されるのか?
■ 2愛されるブランドには3つの価値がある
[2]-1 機能的価値とは?
[2]-2 情緒的価値とは?
[2]-3 自己表現的価値とは?
■ 3 【事例紹介】3つの価値を備えたブランドとは?
■ 4 3つの価値を高めるには?
■ 5 まとめ
■ 1 なぜそのブランドは愛されるのか?
世の中には2つのブランドがあります。
愛され続けるブランドと、人知れずデビューしていつのまにか消えていくブランド。
たぶん、後者の方が圧倒的に多いでしょう。
消えていくことなく、愛され続けるブランドは何が違うのでしょう。
違いは、愛され続けるブランドは、生活者に「価値」を提供しているのです。
「価値」という何の変哲もない言葉ですが、ここに愛される法則が詰まっています。
では、詳しくみていきましょう。
■ 2 愛されるブランドには3つの価値がある
この「価値」というのは、一体どういうことなのでしょうか。
「ブランドの価値を高める方法」だったり「ブランド価値を想像する」だったり、ブランディングについて学んで行くと、「価値」と言葉が随所に出てきます。
具体的に理解している人は少ないと思います。
ブランドが生活者に提供する「価値」を理解することこそが、ブランドを理解することにつながります。
愛されるブランドには、ブランドが生活者に提供する3つの価値があります。
それは、「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現的価値」の3つ。
この3つの価値はピラミッドの構造で考えるとわかりやすく、「機能的価値」はその土台となるもの。
「機能的価値」の上に「情緒的価値」がきて、最上位に「自己表現的価値」がきます。
では、それぞれを詳しく見ていきましょう。
[2]-1 機能的価値とは?
「機能的価値」とはそのブランドの品質や性能、使い勝手、安心、安全といった実利的な機能が生活者にもたらす価値のこと。
例えば、シャープの人気商品に「ヘルシオ」という過熱水蒸気を用いたオーブンがありますが、これは水で焼くオーブンです。
水を使うので、余計な脂を落としながら、減塩しながら調理ができるメリットがあるのです。さらに、調理時の酸化により逃しがちな栄養素をキープできるという特長もあります。
画像出典:シャープ ウォーターオーブン ヘルシオ
http://healsio.jp/feature/axxw500/
一昔前まで、焼く、温めるという機能が主流だったオーブンレンジ。
その機能をさらに高め、水で調理することでおいしく健康的に幅広い調理(焼く・揚げる・炒める・蒸す・ゆでる…など)を可能にしました。
これが、ヘルシオが提供している「機能的価値」です。
つまり、あらゆる調理がこのレンジ1台でできて、さらに美味しくて健康的であるということです。
オーブンで焼くだけの時代。
レンジで温めるだけの時代。
↓
オーブンとレンジが一緒になって1台で調理の幅が広がった時代。
↓
水で調理することで、美味しく健康的にあらゆる調理が可能になった時代。
オーブンの歴史、レンジの歴史は、このように機能を高めて進化してきています。
しかし何か一つの商品が進化すると、やはり競合も機能や性能を高めてくるのが世の常。
ヘルシオのブームを追いかけるように、現在は幾つもの過熱水蒸気オーブンが登場しています。
ヘルシオは、どこで機能的価値の差別化をしているかと言えば、すべての工程を「過熱水蒸気のみ」で調理しているということ。
他メーカーのものは、レンジやヒーターなど他の加熱方式を組み合わせた「過熱水蒸気」調理が主流なのに対して、ヘルシオは、最初から最後まで「過熱水蒸気のみ」の調理。
これによって「過熱水蒸気」調理の力が余すことなく発揮され、他メーカー品よりもおいしく健康的だ、ということを訴えています。
でも、なんだか微差ではないですか?
ヘルシオが登場した当時はヘルシオに圧倒的な「機能的価値」がありました。でも、各社似たようなオーブンを出すようになった今、ヘルシオは他社とほとんど差別化できなくなっています。
あらゆる業界で技術が発展、成熟している現代は、安心、安全は当たり前。品質がいいのは当たり前。高機能も当たり前。
この「機能的価値」はもはやどんぐりの背比べの状態です。
機能を最高潮に高めてブランドを築く、というのもできないわけではありませんが、技術革新が日進月歩な現代はなかなか難しいところではあります。
ちなみに、ヘルシオの最上位モデルでは、無線LANや人工知能が搭載され、スマートフォンとの連携があったり、オーブンと会話ができ、お話で操作ができるほか、オーブンから献立の提案があったりします。
でも、このあたりのAI対応も、家電ならもう当たり前です。
画像出典:シャープ ウォーターオーブン ヘルシオ
http://healsio.jp/feature/axxw500/
つまり、「機能的価値」は、備わっていて当然、と覚えておくよよいでしょう。
モノが少なかった30年前や40年前なら、機能的価値の違いがブランド力の違いを生むことができたと思いますが、今は違います。
機能的価値を高めることは必須、ここがスタート地点になります。
ひとつ誤解のないよう補足をしておくと、ただ多機能高機能にすれば「機能的価値」が高まるというわけではありません。
多機能ゆえ、操作が複雑で説明書も難しい…なんていうものは「機能的価値」が下がってしまいます。
「使い勝手」や「ユーザービリティ」といったものも、「機能的価値」を測る指針のひとつ。
高機能でありながら説明書を見ずに直感的に使えるユーザービリティの高い商品であることも「機能的価値」を高めるエッセンスのひとつです。
[2]-2 情緒的価値とは?
ブランドが生活者に提供する価値の中核を成すのが「情緒的価値」。
ブランドを選択するとき、機能だけではなく、好きか嫌いかといった感情でジャッジすることがあります。
それはブランドがつくる世界観で判断しているわけです。
その世界観は、デザインだったり、ブランド名だったり、ブランドが持つ歴史だったり、物語るストーリーだったり、さまざまなもので構成されます。
そういった世界観に触れ、そのブランドを手に取った人に高揚感だったり充足感だったりをもたらすことが「情緒的価値」です。
この「情緒的価値」は、理屈や理論などの割り切れるものではなく、情緒的な話になるので、説明や戦略を立てることも難しくなりがちです。
でも、この価値要素こそがブランドというものをブランドにしている大きなエッセンスともいえます。
愛され強いブランドづくりのためには、人の感情を揺さぶるような情緒的な要素を織り込んでいく必要があるのです。
この「情緒的価値」の高い商品づくりができれば、ユーザーを熱烈なファンにして永続的なブランドを維持していくことが可能になります。
例えば、「奇跡のりんご」のお話。
書籍化されたり、2013年に映画化されたりしているので、知っている方も多いと思います。
農薬を使わないりんご栽培は絶対に不可能という常識を覆し、無農薬でつくった奇跡のりんごをつくった農家木村秋則さん。
画像出典:幻冬社
https://www.gentosha.co.jp/book/b1450.html
私財を食いつぶし、電話も止められ、娘たちの破れた靴下も継いで履かせるほど一家で貧乏のどん底を味わいながら8年あまり。
やっと1本のりんごの木だけが幾つか花を咲かせ、そのうちの2つがりんごの実をつけたそう。
そのりんごを神棚にあげて、家族全員でそのりんごを食べることに。人生でこんなにおいしいりんごを食べたのは初めてだった、といいます。
商品として出荷できるくらいの数や大きさになったのは、さらに数年後だったとのこと。
人生を懸けて結実させた木村さんのりんごは、「奇跡のりんご」と呼ばれ、申し込みが殺到し、現在は新規のお客さんはなかなか買えない状態です(※購入は難しいのですが、青森県弘前市にある「レストラン山崎」などで奇跡のりんごを使った料理を食べられるそう)。
奇跡のりんごは、一口かじっただけでそのとびっきりの美味しさに驚くといいます。りんごを二つに切って2年保存しておいても、切り口が腐ることがないという驚きの逸話まで。
「奇跡のりんご」、気になって食べたくなりましたよね?
少し長くなってしまったけれど、これが「情緒的価値」です。
スーパーで買ってきたりんごも、この「奇跡のりんご」も見た目は一緒。
もしかしたら、木村さんのりんごの方が不恰好で少し小さいのかもしれません。
でも、同じりんごでも食べたくなるのは「奇跡のりんご」の方です。
それは木村さんの命を賭けた8年を越えるストーリーがその奇跡のりんご1個にぎゅっと詰まっているから。
もちろん「驚く美味しさ」という性能的な要素も、食べたくなる要素ですが、それを後押ししているのが8年以上にもわたる壮絶な汗と涙と情熱の物語。
だって、ただ1つのりんごがあって「このりんごは、驚く美味しさです」と説明があってもそんなに食べたくなりませんよね。
やはりそこに、ストーリーがあるから、なのです。
「情緒的価値」をつくるのは、木村さんの「奇跡のりんご」のようなブランドストーリーだけではありません。
ブランドのアイデンティ、パーソナリティ、コンセプト、デザイン、トーン&マナー、名前、お店の雰囲気、サービス、リレーションシップ……などなどさまざまなことが複合的に重なり合って「情緒的価値」が生み出されています。
これらの要素を見聞きし、体験することで、お客様が充足感を得ることが「情緒的価値」を積み上げていくことになるのです。
[2]-3 自己表現的価値とは?
ブランドが生活者に提供する価値の中で最上位に位置するのが「自己表現的価値」。これが達成できているブランドは世の中にそう多くありませんが、ここまでできると顧客とブランドの絆が強く結ばれ本当に強いブランドになります。
簡単にいえば「自己表現的価値」=自分のスタイルや価値観を表現するための手段としてそのブランドを使っている状態です。
言い換えるなら、自分の価値観を表すのにふさわしいものとしてそのブランドを持っていたり使っていたりすること。
「自己表現的価値」は、特にファッションブランドで表現しやすいところかもしれません。
例えば、ヨージヤマモト。
画像出典:https://furugishion.com/brand/yohji-yamamoto-buy/
1981年、当時「反抗」を意味するとしてタブー視されていた「黒」を全面的に押し出してパリコレに登場。身体に沿ったラインが主流だった当時において、空気を纏うような太めのシルエット、かつボロ切れのようなルック&フィール。
すべてにおいて革命的だった彼のファッションは、「黒の衝撃」という波紋を呼び、山本耀司の名を世界に轟かせました。
フランスのファッション誌には「まるで広島の原爆を彷彿とさせるようだ」と批評されるくらい、賛否両論が巻き起こるほど。
現在も黒を基調に、ドレープやレイヤードなど素材に変化をつけるなど、常識を破壊し、革新的な服を創造しています。
彼のつくるモードファッションには「反骨精神」「脱構築」「破壊と創造」というDNAが流れています。
そして、このヨウジヤマモトのファッションを身につける人も、その価値観に共鳴した人です。
最近亡くなったファッション界の重鎮、カール・ラガーフェルド氏など世界でも愛好家が多く、日本では北野武氏や落合陽一氏なども有名です。彼らの生き方や価値観を表明するひとつとして、ヨージヤマモトのファッションが選ばれているようです。
「自己表現価値」とは、自分を表現する手段として、価値観にあったブランドを使うことや身につけること。
相手に対してこういう価値観であるということを(意識的or無意識的に)表明するということだけでなく、そのブランドを使っている自分が心地いい気分になることも大切です。
■ 3 【事例紹介】3つの価値を備えたブランドとは?
「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現的価値」と、ブランドが提供する3つの価値を見てきました。この3つが揃うと、ゆるぎのない強いブランドができます。
これらの価値が揃ったブランドの事例を見ていきたいと思います。
やっぱりこのブランドを紹介せずにはいられません。
米雑誌フォーブスが毎年発表している「世界で最も価値のあるブランド」ランキング。それに最新の2017年まで7年連続でトップになった「アップル」。
職業人のためのパソコンを一気に大衆のためのパソコンに変えた、カラフルな初代imac。
「電話を再発明する」と表明し、それを実現したiphone。
1000曲が入る小さなデバイスで人々の音楽の聴き方や購入の仕方まで変えてしまったipod。
アップルは、次々と世の中に革新的な製品を誕生させてきました。
アップルがすごいところは、素晴らしい性能の商品をつくるだけでなく、その製品が革新的ゆえに(そして革新的なのに誰でも簡単に使える素晴らしいインターフェイスゆえに)人々の生活スタイルや社会の在り方まで変えてしまっていることです。
今やパソコンは庶民が手に届く価格で誰もが所有でき、世の中のありとあらゆる音楽をいつでもどこでも聞くことができ、スマートフォンでなんでも検索して調べることができ、もちろん自身が動画や画像を発信でき、買い物だってゲームだってなんだってできる世の中です。
いつでもどこでもなんでもできる、というこの現在の当たり前となったこの生活スタイルをつくったのは全部アップルです。
あらためて考えると本当にすごい会社です、アップル……。
アップルがまたすごいことをやってくれるはずだ。
今度はどんなすごい製品を出すんだろう。
やっぱり、かっこいいな。
そんなふうに常に期待を超える商品を出し続けてきたアップルは、新製品を出すことがニュースになり、その製品を使ってまた充足感に満たされるという好循環を生んできました。また、CEOによる新商品のプレゼンテーションもとてもワクワク感を高めるうまいやり方ですよね。
つまり、「機能的価値」の高い製品を出すたびに、「情緒的価値」を積み上げているということが言えます。
そしてこの循環の中で「自己表現的価値」も自然に生み出されています。
製品が人々の生活や社会の在り方を変える中で、アップルに対し「革新性」「イノベーティブ」「創造的」などというイメージを持つようになり、それに少なからず共鳴した人たちがアップルの製品を持つようになります。
また、スタバなどでりんごのマークを光らせながらカチカチ仕事をする人をおしゃれだと感じて、パソコンはアップルにしようなんて思う人もいるでしょう。アップルを使うアーリーアダプターに共鳴して、同じような世界観に憧れ無意識的に「自己表現的価値」としてアップル製品を使用している人たちもいると思います。
アップルは、革新的な製品を起点に「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現的価値」の3つを自然と生み出しているといっていいでしょう。
ちなみにアップルは2018年8月、民間企業として世界で初めて時価総額が1兆ドル(約111兆6000億円)を突破。8月以降、低下の兆しを見せているというものの、これはすごい歴史を作ったと言えると思います。
でも実はアップルは製造部門を自社で持たず、世界中から部品を集めてつくっています。アップルの部品の共有元として、日本企業も多く入っています。
何が言いたいかというと、アップルは他社に比べて特別に技術力が優れているというわけではないということ。
部品など日本の製造技術は優れているとも言えますし、その部品で製品をつくればモノとしてはアップルと遜色のないものができるのでは?という疑問も湧いてきます。しかし、日本のスマホはアップルの売り上げには遠く及びません。
何が違うのか?それは、やはりブランディングの差、といっていいと思います。
大きなビジョンを描くことのできる力、グランドデザインをつくることのできる力、夢を語る力。
そういったものが、他とは圧倒的に違っているのです。
アップル以外にどんなブランドがこの3つの価値を提供できているか、周りのブランドで考えてみましょう。
■ 4 3つの価値を高めるには?
「機能的価値」、「情緒的価値」、「自己表現的価値」をそれぞれ提供できるようなブランドになるためにはどうしたらいいのでしょうか?
それにはまず、最初のブランド設計がとても大事になります。
ブランド設計のための最初の作業であり、ブランディングの基本となるのが「ブランドステートメント」の作成です。
ブランドステートメントとは、簡単にいえばブランドの憲法です。
このブランドステートメントの作り方には様々なアプローチがあるのですが、おおよそ以下のものを策定していきます。
【ブランドステートメント】
● ブランドビジョン…そのブランドによって作り上げたい世界観を示したもの。
● ブランドミッション…ビジョンに向けたブランドの取り組みを示したもの。
● ブランドコンセプト…ブランドが進む先を示す行動指針を端的に明文化したもの
● ポジショニング…競合との差別化をし、ポジショニングを決めた後に、
顧客にとってのブランドの立ち位置や特徴を明文化したもの
●ブランドアイデンティ…ブランドの自己規定。そのブランドとは何者なのかを一言で伝えたもの。
etc
これらを策定することで、ブランドが守るべきもの、姿勢、個性といったものを明確にします。
そして、このブランドステートメントはすべての基になります。ネーミングやロゴ、デザインといったシンボルへの落とし込みも、マーケティング戦略も、このブランドアイデンティティに沿っているものにすることで、ブランドの世界観をつくりあげていくのです。
■ 5 まとめ
今回の記事では、愛されるブランドが提供する3つの価値「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現的価値」について解説してきました。
「機能的価値」とは、そのブランドの品質や性能、使い勝手、安心、安全といった実利的な機能が生活者にもたらす価値のこと。
「情緒的価値」とは、ブランドの世界観に触れ、そのブランドを手に取った人に高揚感だったり充足感だったりをもたらすことが「情緒的価値」です。ブランドの世界観とは、デザインだったり、ブランド名だったり、ブランドが持つ歴史だったり、物語るストーリーだったり、さまざまなもので構成されます。
「自己表現的価値」とは、自分の価値観を表すのにふさわしいものとしてそのブランドを所有していること。
つまり、自分のスタイルや価値観を表現するための手段としてそのブランドを使っている状態です。
この3つはピラミッドのように構成され、「機能的価値」は土台になるもの。これがあって「情緒的価値」が形成され、最上位にくるものとして「自己表現的価値」が形作られます。
これら3つがすべてを提供するのはなかなか容易ではないですが、これができてその商品は強いブランドになりますし、長く愛されるブランドになります。
そして、これらの価値を顧客に提供していくためには、まずブランドの憲法、ブランドの設計図ともいうべき「ブランドステートメント」の策定が大切です。
この辺りのことはまた詳しく別の機会に書いていきたいと思います。
それでは、今回はこのへんで。