2019.03.28

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ブランドを強く、長続きさせるためにSTPは欠かせない 〜ブランディングのためのSTP〜


 

■ 1 STP分析はブランディングにおいても欠かせないステップ

STP分析とは、マーケティングの権威であるフィリップ・コトラー氏が提唱した、マーケティング戦略の基本的なフレームワークです。

 

STPとは「S=segmentation(セグメンテーション)」、「T=Targeting(ターゲティング)」、「P=Positioning(ポジショニング)」の頭文字を合わせたもので、商品や企業などのSTPをそれぞれ分析、明確化するマーケティング分析のことをSTP分析と言います。

 

市場とターゲットを絞り込み、どのような価値を提供していくかを決定し、顧客に対してより魅力的で独自の立ち位置を定めることは商品や企業、事業の差別化や戦略を立てていく上での大切な軸となります。

 

STP分析はマーケティングのみならず、ブランディングにおいても欠かせないステップです。以前の記事「ブランドづくりの意味とは?基本の基本を徹底解説。」の中で“ブランドとは恋愛、つまり、その人(顧客)が商品を好きになっている状態のこと。商品を好きになって、その人(顧客)の価値になっていること。”と解説しました。

 

顧客とブランドとの恋愛関係作りのためには、相手(顧客)のことはもちろん、自分自身(自社・商品・サービス)のこと、さらには2人の現状の関係性をよく把握しておくことも大事ですよね。

 

ブランドと顧客の恋愛関係をつくり、長続きさせるための秘訣として、今回はブランディングのためのSTP分析について解説していきます。

 

 

■ 2 セグメンテーションの意味と必要性

 

あなたのブランドが恋愛対象(顧客)を見つけるためにやることはなんでしょう?恋愛をするにも、アプローチをかけるにも、まずはそこ(市場)にどんな人がいるかを知らなければ狙いが定まりませんよね。不特定多数に存在する人々を、それぞれの好みやニーズに合わせて同質なグループに細分化していくことがSTPの「Ssegmentation(セグメンテーション)」です。

 

 

[2]-1 セグメンテーションが曖昧だと、ブランドの目的も曖昧に

もう少しビジネス的に言えば、“セグメンテーション=市場全体をいくつかのニーズの似ている顧客層に分類すること”です。

恋愛関係における男性像の分類で言えば、

◎“高身長・高学歴・高収入の30代前半3高彼氏”

◎“包容力があり、穏やかで、人生経験豊かな40代半ばの安定彼氏”

◎“趣味が豊富で、好奇心も旺盛、アクティブな30代半ばの友達延長彼氏”

などなど。さまざまなセグメントができますよね。

 

繰り返しですが、STP分析ではセグメンテーションで市場の全体像を把握し、ターゲティングでその中から狙うべき顧客増を決め、ポジショニングで競合他社との位置関係を差別化していきます。

 

そのためには、セグメンテーションで市場にどんなニーズや好みを持つ人のグループがどれだけあるのかを知っておくことが大切なんですね。セグメンテーションが曖昧なままだと、ブランドの目的も曖昧になり、ブランドコンセプトも形だけの中身のないものになってしまうからです。

 

 

[2]-2 セグメンテーションの4つの細分化軸(セグメンテーション変数)〜

しかし、いざセグメンテーションを!といっても、何も手掛かりのない状況では難しいものですよね。セグメンテーションは市場全体を見渡し、人を細かく観察して、隠れたニーズにも思いを巡らせていく、まさに創造的な作業になります。そこで、マーケティングの現場でセグメンテーションに用いられることの多い、一般的な4つの細分化軸(セグメンテーション変数)を紹介します。

 

①人口動態変数(デモグラフィック変数)

人口統計分布に基づいた、最も代表的なセグメンテーションで、年齢や性別、家族構成や職種、学歴、所得、社会的な階層などのがその変数です。

Ex.35歳男性・独身・文系大学卒・年収500万

 

②地理的変数(ジオグラフィック変数)

地理的変数とは、国、都道府県、都市、市町村などの地理的な要素です。具体的にはエリアや規模、人口密度や気候などの変数です。

Ex.関東エリア・郊外50万人都市・人口密度高い・ベッドタウン・交通インフラ◎・内陸性気候

 

③心理的変数(サイコグラフィック変数)

その人の感性や感覚に基づく変数です。価値観や知識、態度、性格、ライフスタイル、求めるベネフィットなどが変数となります。

Ex.(サプリメント市場を例に)イメージ◎・日頃から情報を積極的に得ている・慎重派・健康志向・価格<機能性/実感・品質と安心感を重視

 

④行動変数

商品やサービスの使用行動に関する変数です。購買のきっかけや購買/使用頻度、使用量、ロイヤルティなどを指します。

Ex. (サプリメント市場を例に)友人からの勧め・定期購入〜使用・3年継続使用・使用パターン(量)は都度変化している

 

 

[2]-3 セグメンテーションは、まずニーズで括ること

ここで大事なことは“セグメンテーション”の目的は顧客満足を高める”ものであるということです。そのためどのセグメンテーション変数においても、ニーズに注目することが重要です。

 

特にニーズが多様化する現代においては①人口動態変数(デモグラフィック変数)や②地理的変数(ジオグラフィック変数)といった属性の組み合わせだけで消費者をグルーピングすることはできません。まず、③心理的変数(サイコグラフィック変数)、④行動変数の中に垣間見えるニーズ(インサイト)に注目していくことです。

 

例えば最近話題となっている「厚底ランニングシューズ」の大きな訴求点は“クッショニングの良さ”です。となるとまずは「足への負荷を軽減」を優先するグループが基準になります。その中には、「怪我の予防」といったニーズや「より長距離のランニング」「自己ベストの更新」というニーズなどがあるかもしれません。さらに、その中で最適なニーズを元に「年齢、性別、地域」などの属性をはかっていきます。

 

最終的には属性に落とし込まなければ市場規模を図ることはできないのですが、はじめから属性だけでセグメンテーションをすると、“30代男性はみんな同じニーズを持っている”といったような誤ったセグメントができてしまいます。

 

セグメンテーションは、まずニーズで括ること。これが適切なセグメントを見分けていく秘訣です。

 

 

■ 3 ターゲティングでセグメントの中から標的市場を決定し、ターゲット層を絞る

セグメンテーションの次は、ターゲティングです。セグメントの中から標的市場を決定し、ターゲット層を絞り込んでいきます。ブランド=恋愛関係づくりとすると、どのお相手にアプローチしていくかをロックオン!といったところでしょうか。最も相思相愛の関係になれる(ブランドに魅力を感じてくれる、かつ魅力的な市場である)グループ(顧客像)を定めていくことがターゲティングの目的です。

 

 

[3]-1  3Cの視点で市場の魅力を測る

ターゲティングの際は、どのセグメント(市場や顧客)が自社・商品・サービスにとって魅力的かが絞り込みのポイントになります。この魅力度の検証はいくつかの方法がありますが、代表的のものの1つとして3C(Customer:市場、Company:自社、Competitor:競合)の視点で行なっていきます。

 

Customer:

市場環境の視点では、どのくらいの市場の規模があり、どの程度の市場成長性が望め、収益性は充分見込めるか、といった点を見ていきます。

 

例えば、先の「厚底ランニングシューズ」の市場として都心の主婦層を検討するとします。一見、このブランドとの相性やニーズは合致しそうですが、市場の規模や成長性は多くを望めません。このようなターゲティングは当然避けるべきでしょう。

 

Company:

自社環境の視点では、自社のこれまでの戦略/ビジョン/ミッションとの整合性はあるか、人やハード面、資金など経営資源との整合性はどうか、といった点を検証していきます。

 

例えば、低価格路線→高級路線、スポーツメーカー業→飲食サービス業、など、ブランド認知や市場が拡大できる可能性はあったとしても、戦略/ビジョンや経営資源に伴ったものでないと事業継続は望めず、最悪の場合、今まで培ってきたブランドイメージを失墜させてしまうことにもなりかねません。

 

Competitor:

競合環境の視点では、競合の数や自社と比較した競合の優位性(強さ)などを確認していきます。競合ひしめくセグメント(レッドオーシャン)だった場合は、いくら魅力溢れるセグメントだったとしても、勝てる見込みは少ないため、固執せずに他のセグメントの評価を進めるべきです。

 

このように多角的な視点でセグメントの絞り込みを行い、ブランドの本質的な価値がピタッとはまるターゲット像を明確化していくことがターゲティングの目的です。

 

 

[3]-2 「絶対に買っていく1人」をリアルに描く「ペルソナ」

ターゲティングを明確にする手法の1つとして「ペルソナ」があります。「ペルソナ」とは“仮面”“登場人物”という意味ですが、ここでは“極限までリアルに明確化されたターゲット像”を意味します。

 

「ペルソナ」では以下のような具体的項目を想定していくことで、「絶対に買っていく1人」を詳細に描き出していきます。

【ペルソナ(ターゲットプロファイル)策定項目の例】

 

例えば、とあるランニングアパレルブランドの「ペルソナ」を描いてみるとすると…

 

名前:本田真司
 
年齢/性別/性格など:35歳、男性、独身、性格はこまめ・社交的ではない・マイペース、新しい物好きのミーハー、好奇心は旺盛だがアクティブではない、こだわり派
 
外見:濃いめの顔立ちで170cm中肉中背、身なりには人並み以上に気にしているつもり、ファッションにもポリシーがあるが、特定のブランドに入れ込んではいない
 
最近の悩み:太ってきた、髪が薄くなってきた
 
最近の行動:趣味で始めたランニングだが、最近はボディメイクのために本腰を入れて取り組んでいる、以前のような衝動買いは控えようと思っている、その代わり効果でも高品質なものをしっかり吟味して選び買っていこうと思っている。
 
どんな暮らしをしている?:郊外のアパート2DKに一人暮らし、食事は基本的に外食中食が中心、晩酌は毎日、週末はフットサルかランで汗を流して過ごす。それ以外の外出はあまりしない。
 
「ペルソナ」の言葉:ダイエットのためのランだけど、ウェアなどに絶対妥協したくない。着るなら自分の気持ちが一番アガるものを!そういうところも含めてランニングを楽しんで、ダイエットの結果も出したい!ランに限らず良いものなら普段でも着回せるものが欲しいなぁ。」

 

このように「ペルソナ」を描き出すことによってターゲット像は極めてリアルになるため、漠然としたイメージが鮮明になり、具体的な個人として意識しやすくなります。また、複数人でターゲット像を共有しやすくなり、その後の具体戦略などにも役立ちます。また外部調査によって描いたペルソナを現実の市場の中で定量化することもできます。

 

 

■ 4 競合の商品やサービスに対して自社の立ち位置を決定する「ポジショニング」

 

セグメンテーションとターゲティングによってターゲット像が見えてきたら、ブランドの価値や魅力を的確に伝え、選ばれるようにしなければなりません。それがセグメント(市場)内の競合の商品やサービスに対して自社の立ち位置を決定する「ポジショニング」です。

 

セグメント(市場)が魅力的であるほど、競合が集まり、熾烈な争いが巻き起こるのは当然のことです。ブランディング=恋愛関係づくりで言えば、魅力溢れるお相手は、他のライバルたちからも引く手数多。そんな状況でライバルたちとさして変わらぬ特徴をアピールしても、意中のお相手を射止めることはできないでしょう。

 

目指すは、お相手の心の中で他のライバルたちとは異なる独自のものとして位置付けられることです。差別化されたユニークで明快なポジションこそが、ブランドの特徴を「識別」させ、ベネフィット(価値)を「保証」し、顧客満足の「象徴」してくれるのです。

 

 

[4]-1 明確化されたポジショニングは「ブランド」の価値をわかりやすく表現する

フィリップ・コトラー氏は「ブランド」とは商品を構成する一部としましたが、セグメンテーション〜ターゲティングの仕上げとして明確化されたポジショニングは「ブランド」の価値をわかりやすく表現したものだと言っても過言ではありません。それだけ「ブランディング」にとってポジショニングは重要なものなのです。

 

まずは自動車メーカーのポジショニングを例に見てみると…

◎ボルボ→世界一安全な車

◎ポルシェ→地上最強の小型スポーツカー

◎BMW→究極のドライビングマシン

◎TOYOTA→エコ(環境性能)

とっても明快でわかりやすいポジショニングですね!ブランドにとって最強のポジショニングは優位化でも差別化でもなく、比較対象のない唯一無二のポジションです。その意味では、競合が真似のできないポジションを築いているamazonやapple、NIKEは最強のブランドだと言えるでしょう。

 

[4]-2 明確化されたポジショニングは「ブランド」の価値をわかりやすく表現する

セグメントを見極め、ターゲットを絞り込んだ次は、そのターゲットに対し、どのような存在であるか?どうありたいか?をポジショニングマップの中で定めて行きます。

 

ポジショニングを検証していく上でのポイントは、競合と比較する軸を持つことです。値段や、品質、店舗数、販売チャネルなど、多くの指標の中から必用なものを軸として選び、競合と比較します。

 

軸を選ぶ上で大切なことは、自分たちにとっての独自性・オリジナリティを象徴した軸であることです。

 

価格やコモディティ化された機能などは、以下のような競合との圧倒的な差となり得るとき以外は軸にしてはいけません(例えば、業界初の3ヶ月無料キャンペーン、世界初の技術など)。

 

軸の取り方には以下のようなさまざまなパターンがあると思います。

◎商品特性にフォーカスした軸(特殊な技術やメカニズム、素材など)

◎消費者のベネフィットにフォーカスした軸(品質や安全性、簡便性、満足度など)

◎競合商品との明確な比較での優位軸(高性能、低価格、継続・耐久性など)

 

さらに軸の設定と同時に、このような軸の組み合わせの中で、自分たちがどのポジションを取るべきかを検証していくわけですが、

そのポイントは

◎まだ競合のいない/重複していないポジションを狙う(ブルーオーシャン)

◎自分たちの独自性に最大限フォーカスしたポジションをとる

ことです。

 

2軸の中でこのようなポジションが得られない場合は、軸の取り方を変えていきましょう。

 

 

最高に理想的なポジションは、ターゲットにとって競合との比較さえも必要のない唯一無二の存在となることです。つまり、ターゲットを「熱狂的ファン」にし、長期的に「指名買い」を得られるポジションです。

 

そうです。

セグメンテーション〜ターゲティング、そしてポジショニングによって、顧客に愛され続ける関係づくりとは、つまり企業、商品などにおけるブランディングに他なりません。それだけSTP分析とブランディングは密接な関係にあると言えます。

 

■ 5 まとめ

今回はSTP分析について解説しました。

 

まとめると、

STPとは「S=segmentation(セグメンテーション)」、「T=Targeting(ターゲティング)」、「P=Positioning(ポジショニング)」の頭文字を合わせたもので、商品や企業などのSTPをそれぞれ分析、明確化するマーケティング分析のこと。

 

セグメンテーションで市場の全体像を把握し、ターゲティングでその中から狙うべき顧客増を決め、ポジショニングで競合他社との位置関係を差別化していくことは、マーケティングだけでなく、ブランディングにおいても重要なステップ。

 

◎セグメンテーションは、まずニーズで括る。

 

◎ターゲティングは「ペルソナ」=「絶対に買っていく1人」を詳細に描き出していく。

 

◎ポジショニングを検証していく上でのポイントは、競合と比較する軸を持つこと。大切なことは、自分たちにとっての独自性・オリジナリティを象徴した軸であること。

目指すのは、まだ競合のいない/重複していないポジション(ブルーオーシャン)と自分たちの独自性に最大限フォーカスしたポジション。

 

例えばみなさんがヒット商品の開発を目指しているとき、みんなに好印象を持たれる/注目されるプロモーションを考えている時など、ぜひ参考にしてみてください。

 

STP分析を制する者は市場を制す!マーケティング戦略を制す!ブランディングを制す!なのです。