2018.12.05

| Branding

商品ブランディングの方法とは? 新旧のスターブランド事例で徹底解説。


 

こんにちは!今回は商品ブランディングについてお話ししていきたいと思います。

 

商品ブランディングの方法ってどんなものがあるの?

どういう商品設計でどういう売り出し方をしたら成功するのか?

 

そのへんのところを、事例をもとに徹底解説していきたいと思います。

 

フィールドは、競争の激しいシャンプー市場。

ここに登場した新旧のスターブランド、それも真逆の企業における真逆のブランディングをした事例をご紹介したいと思います。

 

 

 

■ 1 熾烈な競争を繰り広げるシャンプー市場

 

時代はブランド戦国時代。

 

数々のブランドが誕生し、その中でスターブランドになるものもあれば、人知れずひっそりと消えていくブランドもあります。

 

モノやサービスが溢れるこの時代、今日もなにがしかのブランドが世にデビューしていることでしょう。

 

その中できちんと認知を得て、さらに支持されるブランドになるためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

今日は熾烈な競争を繰り広げるシャンプー市場で、各企業における商品ブランディングを学んでみたいと思います。

 

[1]-1 シャンプー市場にうまみ?

 



シャンプー市場は、うまみのある市場だそう。

 

製造原価率は、「洗濯洗剤が50%、化粧品が25%、シャンプーはその中間」と、P&Gのマーケティング本部ブランドマネージャーは東洋経済誌でかつて語っていました。

 

利益率が低ければ、広告費やプロモーション費を使っても利益が望め、企業としてはおいしい状況というわけです。

 

改めて見ると、化粧品の25%というのはすごく低く、ほぼ水や油分なんじゃないか!と突っ込みを入れてしまいたくなりますね。

 

利益率の低い商品市場ほど、競争が激化しているのがわかります。

 

シャンプー市場はうまみが化粧品ほどじゃないけど(でもその分競争率も和らぐ)、なかなかに利益が出せる市場ということになりますね。


[1]-2 活性化しているシャンプー市場

 

昔は、家族でひとつのシャンプーを使い回すことが多かったシャンプー。

現在では、機能も細分化されて年齢や髪質、悩みに応じて様々なジャンルのジャンプーが登場しています。

 

今は、一人がひとつのシャンプーを使うマイシャンプー時代といわれています。

バスルームには、たくさんのボトルが並んでいるというご家庭も多いのではないでしょうか。

 

経済産業省の統計によると、リーマンショックの影響を受けた2008〜2010年に出荷数の減少があったものの、2011年以降増加に転じました。近年は横ばい傾向もあるものの、人口がじりじりと減っている日本において、市場は活性化しているといっていいのではないでしょうか。

 

これは一人ひとりが、たくさんの機能や使用感、デザインの中から、化粧品のように自分の好みに合うものを選んでいるという証。

単価も上昇傾向にあるといいます。

 

低価格で家族向けの商品がメインだったひと昔前から様変わりして、よりパーソナルになった高価格帯の多種多様なシャンプーが占有してきています。

 

この激戦市場において、大ヒット商品を生み出した2つのスターブランドをみていきたいと思います。

 

 

 

■ 2 メガブランド企業から華麗に登場した堂々のブランド「TSUBAKI」

 

 

[2]-1 ブランド誕生のインパクト

 

  ♪ウェルカム ようこそ 日本へ

   君が今ここにいること

   とびきりの運命に 心からありがとう

 

 

当時不動の存在感を示していたSMAPの歌「Dear WOMAN」 に乗って艶やかな印象的な髪とともに登場する、当時を代表する女優6人。

 

そして、「日本の女性は、美しい」という堂々たるコピー。

 

通勤中の女性やヨガをする女性など一般女性のイメージも取り入れながら、

日本のすべての女性を応援するというメッセージを出しました。

 

 

これは、2006年の「TSUBAKI」登場時のCM。

10年以上も前のことですが、すごく頭に残っていませんか。

 

通常は、一つのブランドのイメージにひとりのタレントを使うことが多い中、資生堂「TSUBAKI」は仲間由紀恵や広末涼子などその時をきらめく女優を6名も使った上に、SMAPの曲をタイアップ。

これ以上ないほどの豪華さです。

 

ほとんどの企業は予算的に真似できないかもしれません。

 

そして15秒CMが多い中、女優たちが勢揃いする60秒CM、30秒CMも多く放映されました。

 

CMだけではありません。

CMに次いで、新聞30段広告(カラー見開き1面)も、各紙をジャックして掲載。TSUBAKIのボトルを中心とした象徴的な赤とゴールドのデザインに、やはり「日本の女性は美しい」というコピー。

 

そして、主演女優6名による発売前のプレスリリース。

 

さらに、表参道ヒルズでの出演女優6人による体験イベントも行われ、全国主要7都市の街頭ビジョンで生中継され、それぞれの会場では計80万個の商品サンプルが配られました。

 

これらにより、過去に例をみないほどのPR効果が得られたとのこと。

 

その他にも、交通広告や雑誌タイアップ、特設のブランドサイトなどが立ち上げられ口コミなどの双方向コミュニケーションにも対応、様々なメディアで同時多発的にコミュニケーションを行うメディアミックスのプロモーションが組まれました

 

 

CMをはじめとしたこの圧倒的な登場インパクトは、これまでの歴史の中でも1位といっても過言ではないかもしれません。

 

 

これでもかというほどの広告とプロモーションの力。

発売時、広告宣伝費に投じた金額は当時で同社過去最高の50億円だったといいます。

ここまでできたら見事というくらい、できる広告宣伝やプロモーションをすべてを行なったという感じです。

 

このTSUBAKIは、発売当時にもっとも力を入れ登場のインパクトを残す方法が取られていました。

さらにブランド維持のため、登場以降細かなテコ入れはせず、売り上げが落ち始める半年後にまた大規模なプロモーションをかけるという方法も。

 

CMに出てくる6人の女優は入れ替えられ、旬と思われる女優を使っていきます。

2006年の12月には、最初の6人と次の6人を同時に出した総勢12名の人気女優たちが勢ぞろいする華やかすぎるCMまで。

 

とにかく大々的にインパクトを残す。

シャンプー=「TSUBAKI」という方程式をつくるために行われたマーケティング戦略でした。

 

 

[2]-2 売り上げとシェアの変化

 

巨額を投じた資生堂「TSUBAKI」のメガプロモーション活動はもちろん成功。

この頃、私の周りでも必ず誰かは「TSUBAKI」を使っていたほどです。

 

「TSUBAKI」が登場する前、実は資生堂はシャンプー・リンス市場で4位のシェアに甘んじていました。

 

それを2006年3月「TSUBAKI」の登場からわずか1ヵ月あまりで花王、P&G、ユニリーバを抜いて一気に王者の座を奪取します。

 

アジアの美しさをテーマにした花王の「アジエンス」。

内側から輝く髪をつくることをうたったP&Gの「パンテーン」

代々ハリウッド女優を使って憧れを創出してきたユニリーバの「LUX」。

 

それに対して、資生堂には「スーパーマイルド」や少し高価格帯の「フィーノ」といったところで、競合各社に勝てるような商品がありませんでした。

 

資生堂自身も苦戦しながら、シャンプー市場でしのぎを削ってきた3強に後塵を拝していた状況だったのを、「TSUBAKI」がいともあっさりと抜き去ってしまったのです。

 

初年度売り上げ目標は100億円のところ、大きく上回り180億円。

年間シェアはそれまでの15.4%から23%まで引き上げました。

 

登場当時のオリコンエンターテイメントの調査では、20〜40代のCM高感度ランキングで1位。「Dear WOMAN」もCMタイアップソングの高感度ランキングで1位を記録(2006年5月度)。

 

TSUBAKI」は、登場早々からトップブランドとしての地位を確立したのです。そして、3強からのブランドスイッチを叶えたのです。

 

 

[2]-3 なぜトップブランドになれたのか?

 

「TSUBAKI」がトップブランドになれた成功の1番の要因は、トップヘビーなプロモーション戦略だと私は考えています。

 

もちろん商品設計やブランド戦略も綿密に組まれたもので見事!なのですが、このトップヘビーなプロモーション戦略がなかったら、当時の圧倒的なブランドイメージはなかったでしょう。

 

トップヘビーなプロモーション戦略というのは、発売開始時点にもっとも力を入れること

 

当時のプロモーション戦略を任されたマーケティングディレクター高津氏は読売ADリポートをはじめとしたメディアでこのようなことを語っています。

 

 

今回のプロモーションの組み立ては、発売時点に力を入れたトップヘビーな作りにしています。もちろん、そうしたプロモーションはシェアがすぐ落ちるなどリスクもあるのですが、シャンプー市場は体感を促進しないと売り上げが定着しないし、伸びない市場だという事前の分析がありました。シャンプー市場というのは、低価格嗜好品なんですね。要するにエントリーしやすく、スイッチングしやすい市場です。かつ、消費者の肌感、使ってみての感覚も肥えている。いろいろなところでこだわりを個々人が持っている商品です。そういう意味では、1番のブランド激戦区です。そういう市場に勝ち残るためにスタートダッシュにはかなりこだわったということです。

 

 

3強から引き離し、鮮烈に「TSUBAKI」をデビューさせ、ターゲットである20〜40代の女性の頭に焼き付ける。そして、ドラッグストアでの陳列棚の前に立ったときに、一度手を伸ばさせる。

 

簡単に他ブランドにスイッチしやすいシャンプー市場だから、このトップヘビーな戦略が功を奏しました

 

CMでは20〜40代の日本女性の憧れる女優を複数惜しみもなく象徴として使い、多くのファンを持つSMAPの曲を使い、「日本の女性は、美しい」という大々的なコピーで「あなたたちの味方だよ」「あなたたちの商品だよ」というメッセージを伝え、20〜40代の日本女性をまるっと囲い込んでしまったのです。

 

つまり、日本女性の20〜40代のマイシャンプーをごっそり「TSUBAKI」に置き換えてしまおうという大胆なもくろみのもとに行われた広告、プロモーション戦略

 

 

私自身はシャンプーの成分に人並み以上にこだわりがあったため、結局TSUBAKIを買うことはなかったのですが、それでも、このCMを見るたびに、自分が応援されているような気分になり、ほんの少し「もう少しきれいになってやろう」とか「人生がんばろうかな」という気分にもなったほどです。

 

なかなかここまで心を動かすCMはないのではないでしょうか。

実際にTSUBAKIを買った女性なら、なおさら心を動かされていたはずです。

 

「TSUBAKI」はドラッグストア、コンビニ、化粧品専門店など5万店で一気に販売これは、導入後1年間の配荷目標金額の約半分を1ヵ月で配荷するというペースだったそう。

こうして、「TSUBAKI」を手に取りやすい環境も整えます。

 

これでめでたく、ブランドスイッチの達成というわけです。

 

 

[2]-4 マーケティング戦略はIMC×物量作戦

 

巨額を投じてテレビ、新聞、雑誌、WEB、イベント…とあらゆる媒体で全方位的にコミュニケーション戦略を行なった「TSUBAKI」。

 

マーケティング自体は、統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)」の典型的な例として捉えていていいでしょう。

広告やプロモーションでできることをすべてやったお手本のようなものであり、これは巨大な戦闘力をフルに使い切った物量戦略

 

ノルマンディー上陸作戦と一緒で、一気に商品を市場投入して陸海空あらゆる方面から大量のサポート(マス広告をはじめとした店頭展開)を行うという物量作戦

戦場を「TSUBAKI」に一色にし、一気に勝ちに行きました。

 

これは、資生堂というメガ企業であり、他カテゴリーで売り上げを十分にあげている資金体力のあるところだからできることだと思います。

 

でも、メガ企業でお金を出せればなんでも成功する、というわけではありません。派手なプロモの裏には、練りに練られた企業のブランド戦略と優秀な商品コンセプトがありました。

 

これらが、「TSUBAKI」ブランド確立の成功を支えていたのです。

 

 

[2]-5 派手なプロモの裏に、戦略的なメガブランド構想と優秀コンセプト

 

「TSUBAKI」の華麗なブランドスイッチを支えたのは、資生堂が全社的に推し進めてきた「メガブランド構想」があったからです。

 

資生堂のメガブランド構想とは、多ブランド化していたそれまでの資生堂ブランドを集約、「資生堂の顔」としてふさわしいブランドを作ろうという取り組みです。

 

メガブランド構想を進める中で資生堂は組織改編を行い、商品開発から、コミュニケーション戦略に至るまで担当カテゴリーに関わるマーケティングのすべてを一貫して担当するSBU制(戦略事業単位制)を導入。

 

スキンケア、メーキャプ、ヘア、ボディ、メンズなどの8つの事業単位でそれぞれの責任者であるブランドマネージャーを置き、そのブランドマネージャーが各ブランドの育成から売り上げ達成までの権限と責任を負うようにしました。

 

この流れの中でヘア戦略プロジェクトを立ち上げ、ヘアケアにおける資生堂の顔として「TSUBAKI」は開発されました。

 

 

「TSUBAKI」は多ブランド化していた資生堂のシャンプー群をまとめ、まさに「資生堂のシャンプー」になりました。

 

 

このときの「TSUBAKI」ポジショニングや商品コンセプトが絶妙でした。

ポジショニングとして、「日本のシャンプーVS 海外のシャンプー」という対立構造をとったのです。

 

それまでの上位3強は、LUXやパンテーン、アジエンス。

西洋モデルを使ったりと、LUXやパンテーンはまさに西洋もののイメージ。アジエンスもアジアの美しさを訴えていたけれど、チャン・ツイィーを広告塔に起用するなど日本フォーカスではなく、どちらかというと中国などのイメージが残りました。

 

そこへきて、「TSUBAKI」は日本の美しい女優を使い、「日本の女性は、美しい」というコピーを使って、日本女性のための日本のシャンプーであるという立ち位置を取ったのです。

 

対立構造をとるというポジショニングによって、自分が際立ちます。

相手の弱点を露わにしつつ、相手の大きな力を使って、自分が勝つように持っていくという技

 

後発ブランドだったり、相手の力が大きかったりといったときに、この対立構造をとるポジショニングは有効です。

 

では、商品コンセプトやコピーについても見てみましょう。

 

「TSUBAKI」の商品コンセプトは、「(資生堂の出す)日本人女性のためのシャンプー」といったところではないでしょうか。

 

日本で創業し、100年以上日本人の美を支えてきた資生堂という企業が出す、日本人女性のためのシャンプー。

ブランドコンセプトをそう設定して、「日本のシャンプーVS海外のシャンプー」というポジショニングに落とし込んだのです。

 

商品コピーはそのコンセプトを誇り高く表現して「日本の女性は、美しい」に。

 

いち商品を飛び出して、「TSUBAKI」をフックに社会的メッセージを届けるくらいの大きなメッセージでした。

機能のことは言わず(わかるのは「椿オイルが入っているなぁ」ということくらい)、ただただ日本の女性を賛美、応援するだけ。

 

「あなたは、もともと美しい。大丈夫、もっと(「TSUBAKI」で)美しくなれる。」こんなメッセージが生活者に届き、日本の女性たちは「TSUBAKI」に夢をのせ(その中身はまったくわからないけれど)、「TSUBAKI」を購入したというわけです。

 

実態がわからないけど買う、なんて、

普通こんなコミュニケーション、なかなか成り立ちません。

 

大きいメッセージの場合、受け取る側としては白けてしまったり、自分ごと化できなかったりで、なかなかうまく届かないことが多いのですが、資生堂という大企業の意を決した新商品であり、メーカー史上最大規模の広告宣伝予算を投じたビックプロジェクトでありブランドのポジショニングが絶妙であり、広告宣伝に力があったからこそ、うまく噛み合ったといえます。

 

 

たとえば、小さな会社の自社サイトの自社シャンプーの商品ページで「日本の女性は、美しい」というコピーがあっても、心には響かないですね。

 

絶妙なポジショニング戦略に、あれだけの女優を集め、人気アイドルの曲で盛り上げ、そして大量のCM投下、話題作りをしたからこそ、そのメッセージに力が生まれました。

 

また、あの時代ということもあったかもしれません。まだ、CMが今より影響力を持っていた時代です。

今同じCMを流しても、当時ほどの結果は得られていないと思います。

 

 

構想、戦略、広告、プロモーション、コンセプト、時代、すべてがうまく噛み合った成功事例だと思います。

 

以上、巨大企業が巨額を投じて、全方位的に広告宣伝・プロモーションを行ったブランディングの成功事例でした。

 

 

■ 3 無名の会社から誕生した無名だったブランド

 

では、「TSUBAKI」に対する、現代のスターブランドのお話を。

 

みなさんは「I-ne」という会社をご存知でしょうか?

知っている方は少ないかもしれません。

では「ボタニスト」と言われたら、女性の方であればほとんどの方が分かると思います。

「I-ne」は「ボタニスト」を生んだ会社。

 

「ボタニスト」は、2015年の発売以来、爆発的に売れ続け2018年までの3年間で累計5,000万本を出荷したモンスターシャンプー。

 

 2018年の売り上げランキングでは、「TSUBAKI」を抜き去って上位にランクイン。社員数300名弱という中小規模でありながら、花王、P&G、ユニリーバなど錚々たる大企業と肩を並べています。

 

 

「I-ne」の2016年の年間売り上げは、170億円。これは会社全体の売り上げですが、「ボタニスト」が主力商品であることを考えると、「TSUBAKI」が登場年に売り上げた180億円に匹敵する数字です。

 

「ボタニスト」の登場は、そのくらいのインパクトがありました。

 

現在、ドラッグストアチャネルにおいては、「ボタニスト」はシェアの約1割を占めているそう。

 

このボタニストがすごいところは、TVCMを一切していないところ

ランキング上位の花王にしてもP&Gにしても、ユニリーバにしても皆TVCMで認知を獲得しています。

 

しかし、ボタニストは無名の会社でマス広告はゼロ。

なのに、シャンプーという激戦市場において発売からわずか数年で「TSUBAKI」を抜き去るという大金星

 

どうしてこんなことができたのでしょうか?

そのブランディング成功の秘訣をみてみましょう。

 

 

[3]-1 激戦区の中にわずかなブルーオーシャンを見つけた商品設計

 

 

シャンプー市場は時代が移りやすい市場です。

2010年以降は、ノンシリコンブーム、オイルシャンプーブーム、オーガニックブームなどさまざまなブームがやってきました。

 

かつて、圧倒的ナンバーワンだった「TSUBAKI」も時代の流れとともに陰りをみせ、近年花王、P&G、ユニリーバなどにシェアを奪われ苦戦を強いられていました。

 

そんななか、時代の波を受けて登場したのが「ボタニスト」です。

 

それまで一部の人のものだったオーガニック、自然志向といったライフスタイルが、近年若い女性を中心に大衆化してきました。

化粧品やヘアケア商品、食品、ライフスタイルなど、さまざまなものがオーガニックやボタニカルなもので溢れ始めていました。

 

 

そこで、「植物と共に生きるボタニカルライフスタイル」というコンセプトで「ボタニスト」という商品を開発

 

コンセプトにもしているように、天然由来成分90%で植物由来の成分を中心にした成分で設計されています。

 

そして、「ボタニスト」のブランドサイトには、以下のようなビジョンが掲げられていました。

 

 

植物の恵みを現代に。

 

今を生きる私たちにフィットする、

植物が持つ豊かさと科学の最適なバランスを追求し続ける。

心地よい香りと使用感、シンプルなデザイン。

どこまでもこだわったプロダクトで、新鮮さと驚きにあふれる体験を日常に。

 

 

当たり障りのないことを言っているようですが、商品設計として重要なことを言っています。

 

注目は、2行目。

 

植物が持つ豊かさと科学の最適なバランスを追求し続ける。

 

そして、3行目も。

 

心地よい香りと使用感、シンプルなデザイン。

 

 

植物の恵みを謳いながら、完全な自然派志向ではない。

完全な自然派志向だと、髪がキシキシしてしまうなど使いごこちが悪かったり、香りがよくなかったり。

 

そして、これまでも自然派のシャンプーはありましたが、何よりおしゃれじゃなかったのです。

 

 

だから、ボタニストは、天然由来の成分を中心に低刺激のシャンプーを設計しつつも、ポイントで化学の力も借りながら、香りよく、しっとりさらさらに、そして、パッケージをおしゃれに作ったのです。

 

 

「ボタニスト」の成功はまず、商品設計時のポジショニングの成功。

欲しかったけど今までは存在していなかった。そんなシャンプーの隙間を見つけ、そこに商品を投じたのです。

激戦区のシャンプー市場だけど、その中にあるわずかなブルーオーシャンを見つけたんですね。生活者のインサイトを踏まえたうえで。

 

 

これまでの自然派シャンプーのよくなかったところ(使い心地、香り、おしゃれさ)を改善して、「ボタニスト」とまたおしゃれ風な名前(ナチュラル、というより、ボタニカルという方がおしゃれですよね?)をつけて販売したというわけです。

 

本気の自然派、本気のオーガニックは疲れるし使い心地がよくないし、おしゃれじゃないけど、それに対して「ボタニスト」は「なんとなくオーガニック気分」を叶えた商品だと言えると思います。

 

「なんとなくオーガニック気分」なら、敷居が低く、心地よくみんなが使えます。

 

おしゃれなパッケージをしたなんだか髪に優しそうなシャンプー「ボタニスト」は、SNSで話題になり、若い女性の間で爆発的に支持を得られるようになっていったのです。

 

「ボタニカルライフ」と訴えているものの、ユーザーの中にシャンプーに何の成分が入っているかを知っている人などほとんどいないでしょう。

 

 

「おしゃれになんとなく髪にいいもの」

 

現在の若い女性たちのこんな気分にゆるくつながった、絶妙な商品設計だったと思います。

 

 

余談ですが、最近の日常品のデザインをよくよく見ていると、シンプルなデザインのものが増えてきていると思いませんか。おしゃれなライフスタイルに合うシンプルなデザインが。

 

代表的なものではアスクルなどで扱っているティッシュボックス、を考えるとわかりやすいかもしれません。最近はスーパーなどのトイレタリー商品にも多いですよね。

 

これは店頭で目立つデザインというよりも、生活に溶け込むデザインが求められていることを反映したもの。

 

 

今どき、特に若い女性に向けては、「おしゃれ」であるということは、ブランド成功のかなりのポイントになります。

 

ボタニストもこのパッケージでなかったら、絶対にここまで売れていません

 

 

[3]-2 インフルエンサーとSNSを賢く利用したマーケティング戦略

 

現代にバッチリ合致した商品設計をした「ボタニスト」ですが、マーケティング戦略もとても賢いものでした。

 

「ボタニスト」が行ったのは、SNSを中心としたインフルエンサー・マーケティング。

 

生活者に強い影響を与えるタレントやモデルなどの有名人をインフルエンサーに特定し、その人にSNSやブログで紹介してもらうというもの

 

 

実際、紗栄子や山田優など若者に影響力のあるタレントがボタニストを手にした写真をInstagramにアップし、それを見ていいなと思った一般生活者が同じように投稿、さらに商品が拡散していきました。

 

発売当初は、取り扱いは自社サイトのみ。

ブランドの認知が高まると、ドラッグストアや、バラエティストアなどに販路を拡大、現在では2万店を超える店舗で取り扱いがあるそうです。

 

 

前述した「TSUBAKI」はマス広告を中心に大量投下した物量作戦

インフルエンサーを特定せずとも、いきなり大多数の大衆(フォロワー層)に大規模な広告宣伝への投資と流通展開を整備することで、認知を獲得するという方法です。

 

対する「ボタニスト」はそこまでの資金力はありません。

資生堂のように広告宣伝費に巨額を投じたり、販路を持っていたりするわけではないI-neは、インフルエンサーとSNSを賢く使いました。これが大ヒット。

 

「おしゃれになんとなく髪にいいもの」であるボタニストは、おしゃれ感を発信するInstagramととても相性がよかったのです。

 

 

 

■ 4 新旧スターブランドの成功の戦略比較

では、新旧スターブランドの違いを簡単におさらいしてみましょう。

 

 

 

TSUBAKI

ボタニスト

ブランド登場

2006年

2015年

マーケティング戦略

資金力を活用した物量作戦。

マス広告を中心にした大規模な統合型マーケティングコミュニケーションを行う。

 

少ない資金力で影響力のある人を活用した、SNS上でのインフルエンサー・マーケティングを中止に行う。

 

 

広告宣伝・

プロモーション施策

CM、新聞、雑誌、フリーペーパー、交通広告、PR、イベントなどありとあらゆるコミュニケーション施策を大規模に展開

ほぼInstagramを中心としたSNSのみ

販路(発売当初)

ドラッグストア、コンビニ、化粧品専門店など全国5万店舗

自社サイトのみ

 

※のちに楽天など他のネット販売、そしてドラッグストアやバラエティショップへと拡大

商品コンセプト

日本人女性のためのシャンプー

(日本の女性は、美しい)

物と共に生きる

ボタニカル

ライフスタイル

年間売り上げ

180億円

※登場の2006年

170億円

※ 但し、会社全体の売り上げ(2016年)

会社規模

社員数

37,438名

(2017年12月)

資本金

645億円

 

社員数

250名

(2017年3月)

資本金

2,500万円

 

誕生の年代は違いますが、まったく真逆の立ち位置で、真逆のアプローチを展開した2つのスターブランド。売り上げ金額から考えて見ても、ほぼ同等のインパクト。

 

どちらも、時代の波にのってその時代にあったアプローチをしたということがいえると思います。

そして、お互いにそれぞれのポジショニングが絶妙でした。つまり、コンセプトワークが成功したといえます。

 

 

近年飛ぶ鳥を落とす勢いが続いた「ボタニスト」ですが、このまま安泰というわけにはいきません。ブームはいつか過ぎ去り、そして時代は変わり人の気分も変わっていきます。

 

今は限定品などを出して、常に新鮮さを維持するようにしている「ボタニスト」。どのようにブランドを維持していくか、今後の展開に注目です。

 

「TSUBAKI」もノンシリコンを出したりと、少しずつチューニングしたものを世に送り出してはきましたが、登場時の勢いは陰りを見せています。

 

でも、資生堂だってこのまま黙っているとは思えません。

この時代に、あのメガ企業はどういう展開をしかけてくるか。

こちらも今後の動きが気になります。

 

 

■ 5 まとめ

今回は、新旧2つのスターブランドの商品ブランディングをみていきました。

 

ボタニストのブランディングは多くの企業を勇気付けたのではないでしょうか。

会社規模が小さくても、たった数年で、スターブランドはつくれる!と。

 

それぞれ時代が違えど、2つのスターブランドに共通しているのは、ポジショニングの成功。つまりコンセプトワークがよかったというわけです。ブランディングの要はコンセプトです。

 

でも、時代が変われば市場も様変わりし、このコンセプトの力やブランド自体の力も弱くなってきます。

そんななかで、ブランドが生き残っていくために必要なことは2つあると思います。

 

まず1つ目に、ブランドは常にチューニングをすること。

 

いくら爆発的に売れていても、時代は必ず変わり、ブームは過ぎ去り、人の気分も移ろいゆくもの。

ブランドが同じ場所に居座っていては、必ず取り残されます。

 

時代の波を読み、ユーザー視点に立って、常にブランドをチューニングし、そして要所要所でニュースを発信していくことです。

 

 

そして2つ目に、ブランドコンセプトは常に本質に即していること。

 

 「TSUBAKI」が凋落した原因として、「TSUBAKI」はそこまで「TSUBAKI」が掲げた「TSUBAKI」じゃなかった、ということだと私は思っています。

 

つまり、「日本人女性のためのシャンプー」というコンセプトや「日本の女性は、美しい」というメッセージが高尚すぎて、素晴らし過ぎて、商品の中身が追いついていなかったのです。

 

中身は、石油系合成洗剤が主で、椿オイルの良さが相殺されてしまっている感がありました。

多くの低価格帯シャンプーは石油系合成洗剤が使われていますし、ビジネス上でも多くの人に手に取ってもらうためにも仕方がないところではあります。

 

でも、「TSUBAKI」はきっとこれではいけなかったのです。だって訴えていたのは「日本の女性は、美しい」ですから。

 

 

オーガニック、ボタニカルブームが大衆化して、成分をなんとなく気にする女性たちが増え、「TSUBAKI」の中身にNGを出したのが「TSUBAKI」をスターの座から下ろした要因と思っています。

「TSUBAKI」は1000円近くする中価格帯シャンプーだったので、この金額を出してこの中身はない!と。

 

 

だから、「ボタニスト」が伸びたのです。

「ボタニスト」は1500円ほどする価格で、「TSUBAKI」よりもさらに高めの設定です。

でも、成分は石油系合成洗剤ではないらしい、と。そして、使い心地もよくて、おしゃれだと。それなら、今までよりも少し奮発して「ボタニスト」にしようと。

 

 

だから、ブランドコンセプトは常に本質に即していることが大事です。

どんなに素晴らしいコンセプトでも、背伸びをしていたり、本質に即していないといつか足元をすくわれます

 

 

そういう意味でいうと、「ボタニスト」も少し気にかかるところがあります。

 

コンセプトはいいにしても、ユーザーとの接点がふわっとしているので(実際はこのコンセプトに共感というよりも「おしゃれになんとなく髪にいいもの」でつながっている)、いつか他の「おしゃれになんとなく髪にいいもの」に持って行かれてしまいます。

 

1年後、3年後、どのような市場になっているか。

シャンプー市場に、今後も注目していきたいと思います。

 

 

最後にものすごく余談ですが、成分にこだわり高価格帯シャンプーを使ったりしていた私は、家族が増え、メリットを使っている次第です。

 

いろんな余裕がなくなり、髪がどうのこうの言っていられなくなり、生活動線上にあるスーパーの安価なシャンプーを手にとるという生活に。

 

やっぱり、不動の売り上げを誇るメリット。

家族のための手頃なメリット。

ブレてない。

でも時代に合わせてちゃんとチューニングされてますけどね。